NTT-NGNのIPv6 NATはユーザ不在だ
一般にはあまり話題になることが無いが、NTT NGNのIPv6アドレスとISPが配布するIPv6アドレスとをどう共存させるかが問題になっていて、総務省の発表している資料(※)によると、NTT東西とISPとの協議で、NTT NGNがIPv6 NATを使う方向でまとまりつつあるように見える。
※インターネット政策懇談会 第7回、 資料7-1の10~15ページ、資料7-2の14ページ
現在、ISPが担っているインターネット接続というサービスをIPv6でも存続させるために、NGN側のIPv6通信にNATを介在させようとしている。これはもう、愚かどころかユーザの利益を大きく損なう暴挙としか言いようがない。
今のIPv4のインターネットでは、ユーザの家庭のネットワークとインターネットとの間にNATがあるために、ユーザ端末間の直接通信が困難になっている。アプリケーションではNAT越えのためにあれこれと回避手段を講じることが必要になり、アプリ開発が面倒になるどころか、必ず接続できることが保証できない。このためアプリの発展を大きく阻害している。
このような方式にすると、次のような3つの大きな問題ができる。
●通信の非効率性
ISPのネットワーク設備は、あたりまえのことだが、NTTのような通信キャリアを超えられない。超えられないどころか、大きく劣る。アクセス網がFTTHで1Gbpsになったとしても、連続して通信し続けると10Mbpsも出ない状態が残る。札幌で隣の家と通信するにも、東京の大手町を経由するという無駄をすることになる。
ユーザはFTTHに高い金を払っても、ISPのためにFTTHの能力を使うことができない。
●アプリケーション発展の阻害
一般の人にとってインターネットと言うとメールかWebブラウザしか出てこない貧相な状況を生み出したことの一因は、NATにある。NATは、エンドユーザ間での通信を行うアプリ開発を難しくする。Skypeやオンラインゲームなど、技術的な工夫を重ねているものはあるが、一般ユーザにとっては依然として敷居が高い。ユーザ間の直接通信ができないために、GoogleやYahooなどの外部の巨大サービスに依存させられることになる。
●世界の発展から取り残される
通信キャリアとISPという2重構造が大きなシェアを残しているのは、世界中を見回しても日本と英国くらいしかない。英国では、2重構造を厳しく強要された British Telecom が積極的なサービス拡大をためらい、他のEU諸国に比べて先進サービスへの挑戦が遅れている。
FTTHのような最初からIP通信ができることを想定した通信手段を直接家庭に提供している状態で、通信キャリアがインターネットアクセスを提供していないのは日本だけだ。日本はFTTH普及というハードで先行したものの、欧米はもちろん東欧やBRICS諸国でもFTTHサービスが拡大しつつあることで、先行性は薄れつつある。それどころかアプリケーションで一気に追い抜かれようとしている。
この問題については、以下のような記事もある。
記事中、『あるプロバイダ関係者は「NTT側も、この問題が顕在化することは、NGN構築当初から理解していたはず。始めからネイティブ方式ありきだったのでは」と疑念をぬぐい切れない様子。』とあるが、このプロバイダの認識は根本的に間違っている。
もともとISPは、各家庭が通信手段としては電話線しか持たない状況にあったときに、音声回線上のアプリケーションとしてインターネットへの通信手段を提供するサービスであった。IP通信の利用が発展して各家庭にIP通信回線が提供されるようになれば、そのようなサービスは不要になる。最初から分かっていたことなのに、あらかじめ準備できていないのは、彼ら自身の責任だ。それなのに、ISPは不要になったサービスを存続させるために、サービスの非効率性というコストをユーザに負わせようとしているのだ。
橋のない川に渡し船を始めたのがISPだ。橋が無い時代に果たした役割は大いに認める。だが、川を渡る利用が増えれば橋が架けられるであろうことは誰でも予想できる。今、FTTHという往復各3車線もあるような立派な橋ができたというのに、ISPは渡し船をトレーラに載せて運用し、ユーザに対してあくまで渡し船に乗ることを強要しようとしている。狂気の沙汰だ。
気になるのはNTTが何を考えているかだが・・・。NATを入れることでネットワーク側のサポートがなければユーザ間の直接通信ができなくなる。ネットワーク側すなわちNTTだ。NTTとしては、ユーザから金を取る機会が増えると見て、むしろ歓迎しているかもしれない。ちょっとひねくれすぎた見方だろうか。
'09/3/5 追記 : ここはちょっと煽りすぎた。インターネット政策懇談会では、あらたに「案4」が出ている。ネイティブアクセスとISPをなんとか両立させようとした苦心が感じられるものとして評価したい。


流石に最後の記述ほどひどくないですよ。
仰るとおり、ISPなどがNTT寄生事業を存続したいという状態で、総務省の意向もあり、仕方なく代替案を模索しているのが現状。
むしろ、NAT方式などになってアプリケーションの制限が出てくるようであれば、FTTH事業の存続自体が危ぶまれます。
ユーザー視点からは、当初案の案3が良かったと思うんですけどね。
投稿: | 2008年12月26日 (金) 08時33分
ISPには、耳の痛い指摘ですが、確かに正論なのだろうと思います。
昨日、JAIPAとNTT東西による、事業者説明会があったようですね。
どのようなものだったのか、気になりますが、近いうちにメディアが取り上げてくれるんですかね。
日経コミュニケーションとかかな?
投稿: | 2009年2月 7日 (土) 13時33分